DUNLOP Racing Team with YAHAGI インサイドストーリー15
「3年目の結実」――JSB1000挑戦で掴んだ進化と、未来への技術革新


最高峰JSB1000クラスへの本格参戦から3年。「3年でチャンピオンを狙えるタイヤを作る」という果敢な挑戦のもと始まったダンロップのプロジェクトは、今まさに大きな結実の時を迎えている。長島哲太選手と藤沢裕一監督率いるチームが一体となり、試行錯誤を重ねて培ったデータとノウハウは、絶対的なパフォーマンスのみならず、あらゆる環境に対応するタフな安定性をタイヤにもたらした。本稿では、激闘の歴史を振り返るとともにダンロップ技術陣へインタビューを敢行。そこから見えてきたのは、勝利への執念と、市販タイヤの未来をも見据えた真摯な『ものづくり』の姿だった。

プロジェクトの歩み:栄光への軌跡

2024年(プロジェクト始動期)

〇背景・目的:​ダンロップがJSB1000クラスにおいて本格的なタイヤ開発・参戦を進める中で、その内幕と技術的挑戦を伝えるべく発足。
〇トピック:長島哲太選手を開発ライダーに迎え、藤沢裕一監督率いる「DUNLOP Racing Team with YAHAGI」とともにスタート。レースウィークの全セッションを開発・テストに充てるなど手探りながら、「これまでにない旋回性」を武器にプロジェクトのベースを構築した。


2025年(開発の前進と基盤構築期)

〇背景・目的:初年度に築いた「30%の土台」から、高温路面への対応など開発範囲を広げ、パフォーマンスを一段階引き上げるフェーズへ。
〇トピック:セパンや岡山でのテストを経てシーズンに突入。長島選手が開発ライダーとしての冷静さとマネジメント力を発揮し、フィードバック精度が飛躍的に向上。耐久性の向上とパッケージの安定化を果たし、後半戦の表彰台獲得など着実な礎を築いた


2026年(飛躍と実戦での答え合わせ期)

〇背景・目的:冬場の取り組みの成果を確認し、ライバル勢と互角以上に渡り合える戦闘力を実戦で証明するフェーズ。
〇トピック:セパンテストで高温下におけるベースタイヤの方向性を確立。フロントの仕事量を引き上げる「サイズ変更」がもてぎ等のブレーキングコースで強力な武器となり、開幕戦(もてぎ2&4)ではプロジェクト最高位の2位表彰台を獲得。確かな手応えを得て、課題はより高度な領域へと移行している。


開発陣インタビュー:3年間の真実と深層

1. 三年間での最大の進化――プロファイルとコンパウンドが生んだ対応力


2024年に「3年でチャンピオンを狙えるタイヤを作る」という目標を掲げてスタートした本プロジェクト。開発陣が挙げた「最大の進化」は、フロント・リアともにコンパウンドとプロファイルを刷新したことだった。
この開発を通じて、前後タイヤがどのように使われているか、タイヤ温度を含めた使用条件の理解が格段に深まったという。その知見を基に最適化したコンパウンドとプロファイルを設計できたことで、絶対的な性能向上にとどまらず、路面温度やコンディションの変化に対する対応力・安定性が飛躍的に向上した。
一方、構造に関してはプロジェクト開始時にベースを熟考し、2024年開幕戦のタイミングで大幅な変更を実施。その後の2年半、最新技術を取り入れつつも大きな構造変更を行わなかったのは、初年度に導入した構造の完成度が高く、その方向性の正しさが証明されたからにほかならない。
「路面温度や走行環境の変化に対する対応力・安定性の向上。これこそが今回のプロジェクトにおける最大の進化です」

2. 想定とのギャップ――立ちはだかる壁と「絶え間ない次の一手」

限られた3年という期間で目標を達成するため、開発当初は「壁にぶつかり、解決の糸口が見つからず立ち止まる場面もあるだろう」と覚悟して臨んでいた。
しかし、良い意味でその想定は裏切られることになる。実際に何度も大きな壁に直面したものの、社内外の関係者とデータや課題を常に共有し、議論を重ねた。その結果、一度も「次に何をすべきか分からない」という手詰まりに陥ることはなかったという。
課題に直面するたびに複数の解決案やアイデアが湧き上がり、それを即座に検証するサイクルが回っていた。困難な状況でも常に次の一手が見えていたことこそが、プロジェクトの大きな強みだった。


3. 開発を加速させた長島哲太の「分析力」と「柔軟性」


開発ライダー長島哲太選手の存在は、開発スピードと精度を極限まで高めた。
長島選手は「速く走るためにはどうあるべきか」という確固たる基準を持っている。そのため、現状のマシンやタイヤに何が不足しているか、どこを改善すればタイムにどう影響するかを極めて具体的に言語化する。これにより開発陣はラップタイムへの寄与度が大きい課題から優先的に着手でき、効率的かつ最短距離で性能向上へと繋げることができた。
さらに長島選手は、理想の走りを追求するだけでなく、開発中のタイヤ特性に合わせて自らのライディングを柔軟に変えてテストを行うことができる。その上で細かな変化をフィードバックするため、タイヤの特性をより深く詳細に解析することが可能となった。

4. 最も苦戦した「パッケージングの壁」

3年間で最も苦労したのは、2024年後半から2025年前半にかけてのリアタイヤ開発だった。
当時、加速性能を向上させる設計手法自体は確立されていたが、それを投入すると応答性や耐久性に悪影響が出るというジレンマに直面。解決策を検証しては新たな壁にぶつかる試行錯誤が続いた。
加えて同じ時期、プロファイルの大幅変更など複数の開発テーマが並行していた。単体では有効なアイテムであっても、それらを一つのパッケージとして高次元で融合・バランスさせることに非常に時間を要したという。トータル性能として成立させることの難しさを痛感した時期であった。


5. 転換点(ブレイクスルー)――2025年7月、岡山で見えた確信


開発陣が大きなブレイクスルーを感じた瞬間として挙げたのが、2025年7月の岡山テストだ。
開発の方向性自体は2025年の年初にすでに固まっており、「これを形にできれば必ず競争力のあるタイヤになる」という予感はあった。その構想を具体化するまでに約半年を要したが、岡山テストにて目指していた前後タイヤの姿が形となり、総合性能が一気に飛躍。自分たちの開発アプローチに対する揺るぎない確信と自信を得た瞬間となった。

6. 現状の課題とシーズン後半戦へのアプローチ

着実な進化を遂げる一方で、現在も開発陣が満足していない課題として挙げるのが「コーナー進入時におけるリアタイヤの制動性能」である。
これはプロジェクト当初から向き合い続けてきた最重要テーマであり、大きく改善されたものの、目指す高みにはまだ達していない。しかし、原因とアプローチの方向性は完全にクリアになっており、シーズン後半戦に向けてすでに対応策の準備が進められている。
残り3戦のチャンピオン争いにおいては、この「リアの制動性能」「高CA(キャンバー角)での加速性能」が鍵を握ると分析している。


7. 後半戦のテーマ――新たな「熟成」のフェーズへ


シーズン後半戦に向け、開発陣はまったく新しいコンセプトのスペックを投入する予定はないと語る。
現在のタイヤは基本性能としてすでに高いレベルに達している。そのため、大きな方向転換をするのではなく、これまで積み上げてきた技術や性能を徹底的に磨き上げ、完成度を高める「熟成」の方向でリアタイヤの総合性能向上を図っていく。

8. レースフィールドから市販タイヤへの還元、そして「プロジェクトの成功」

本プロジェクトで得られた技術と知見は、すでに未来の市販タイヤ開発へと脈々と受け継がれている。
JSB向けタイヤと市販タイヤが直面する技術的課題には共通点が多く、レース開発チームと市販タイヤ開発チームは日常的に密な情報共有を実施。過酷なレース環境で実証された新技術や設計思想は、すでに次期市販モデルへの適用計画が進んでいる。
では、このプロジェクトにおける「成功の定義」とは何か。
『チャンピオン獲得』は間違いなく成功を測る重要な指標です。しかし、このプロジェクトのゴールはそこだけではありません。レースで培った知見や技術を市販タイヤへと展開し、新しい価値としてユーザーへ届けるところまで含めて、ひとつの大きな計画なのです」
サーキットでの勝利、そしてライダーたちの足元を支える市販タイヤへの還元――。ダンロップの挑戦は、チャンピオン獲得のその先にある「未来」を見据えて加速し続けている。


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