DUNLOP Racing Team with YAHAGI インサイドストーリー16
【チーフエンジニア 藤沢裕一さん インタビュー】


藤沢裕一さん(右側)

全日本ロードレース第5戦もてぎ(8月)、第6戦岡山(9月)、
後半戦のこれまでの戦い、そして最終戦の鈴鹿について DUNLOP Racing Team with YAHAGI チーフエンジニア 藤沢裕一さん が語ります。

0秒100差の2位、もてぎの戦い

「後半戦に向けて大きかったのは、テストの機会を増やせたことです。うちは耐久レースに参戦していなかったので、その間にダンロップがプライベートテストの回数を増やしてくれました。オートポリスでのテストや、もてぎのスポーツ走行などを重ね、後半戦に向けてアップデートしたタイヤを確認、整理することができました。オートポリスには、ダンロップがこの先に進むために確認しておきたい要素がコースレイアウトの中にありました。そこで課題が見えたことも大きかったです。1日だけのテストも多く、移動している時間の方がテスト時間より長いくらいでした。それでも、積み重ねたことで、進むべき方向と、今あるタイヤの使い方の良し悪し、どう調整すればいいかが見えてきました。


同時に車両のアップデートを準備する時間も取れました。そこは、うちのチームにとって大きかったです。車両側でひとつのポイントになったのは、ホンダから供給されたエンジン関連パーツのアップデートです。ただ、スケジュールの都合で事前に実走確認をすることができず、もてぎのレースウイークで直接投入する形になりました。関係者も限られた時間の中で動いてくれましたが、みんな余裕のない状況でした。チームで事前に確認できることは済ませ、現場で実際に走らせながら、ロガーデータも含めて整理し、アジャストしていきました。

走り始めたときの手応えは、想定していたものに近く、『ここは使えるだろう』と考えていた部分も、狙いどおりに使えそうでした。そこで、その特性に合わせてセットアップの基準も合わせ直しました。ただ、走行期間中に雨が降り、ドライで詰め切れなかった部分もありました。高温対策を中心に準備していたのに、想定していた気温にならなかったことも難しかったですね。
もてぎのレース1はウェットになり、その路面と、その時点のダンロップのレインタイヤとの相性が厳しい状況でした。決勝までにセットアップを大きく変更しましたが、あのレースは、あれが精いっぱいだったと思います。


一方、ドライでは、高温を想定して用意したタイヤの耐久性は分かっていました。そのタイヤを、実際の路面温度で機能させられるようにセットアップを進めました。金曜日にはトップタイムを出し、自己ベストに近いところまで来ていたので、自信はありました。そこから、決勝に向けてどこまで調整できるかが重要でした。
結果的に、タイヤの特性をうまく使い、レース全体のアベレージを上げることができました。序盤からタイムを上げられ、終盤までタイヤを持たせることもできました。最後の2周はかなり厳しくなっていましたが、ああいうレースができたのは、インターバル中のテストで、さまざまな環境のデータを集められたことが大きかったと思います。

雨の岡山で優勝、終盤の連続ファステストで後続を引き離す

岡山も、ある程度は気温が高くなることを想定して準備しました。昨年は岡山を中心にプライベートテストを重ねていたので、昨年の岡山での3位は、ライダーも十分に走り込んだうえで得られた結果でした。一方、今年は今回の事前テストが、約1年ぶりの岡山での走行でした。


それでも、コースの特性は分かっていますし、昨年のデータもあります。それを今年のタイヤに当てはめ、もてぎで得たデータも反映しながら調整を進めました。使える部分の確認はできていて、自分たちのベストタイムが見えるところまで来ていたので、ドライでは戦いやすい状況にありました。
ただ、事前テストは天候が想定と合わず、ドライで確認できたのは2日目の短い2本の走行だけでした。データとしては、かなり足りませんでした。レースウイークの天候もまだ読めない中で、気温が上がることを想定し、調整に使えるパーツを準備して岡山に入りました。

決勝は晴れると思っていましたが、予報も次々と変わり、結局は雨になりました。予選では、岡山の路面の影響もあって、どのライダーもグリップに苦しんでいたと思います。雨量の変化に対して非常に敏感で、セットアップを合わせることが難しかった。それは、うちのチームも同じでした。
予選でQ2に向けて他車がタイムを上げていく様子を見て、あのくらいの雨量で決勝になれば、厳しいレースになるだろうと考えていました。その意味では、決勝がヘビーウェットになったことは、うちのチームにとって幸運でした。


もちろん、他車のタイヤには優れたところが多くあります。ただ、今回の決勝の路面状況では、その良さを誰もが十分に引き出せる環境にはならなかったと思います。うちのチームはぎりぎりまで調整を続け、あとは哲太の力でカバーできるところまでセットアップを持っていけました。それが今回の勝因です。
通常のウェット程度の雨量だったら、今回のレースは勝てなかったかもしれません。ヘビーウェットになったことで、ライダーの力でカバーできる部分が増えた。それが一番大きかったと思います。こうした雨量では、セットアップも大切ですが、それ以外の部分が占める割合も大きくなります。その中で、哲太が最後まで集中して走ってくれました。

レース中は、正直に言って、簡単に勝負を仕掛けられる場所がありませんでした。抜きにいくリスクが非常に高かったので、相手のミスを逃さず、前に出られたら、そこで一気にスパートするしかありませんでした。難しい状況でしたが、その必要なことを、実際のレースの中ですべてできたことが勝利につながりました。
國井選手にミスがなければ、こちらも大きなリスクを負って勝負しなければならず、転倒していた可能性もあります。國井選手も限界で走っていたと思いますが、あのひとつのミスで展開が変わりました。哲太はその機会を逃さずに仕掛け、前に出てからスパートした。そこで一気に差が開いたので、國井選手も、それ以上のリスクを負って追うことが難しくなったのだと思います。


特別な作戦というより、あの状況で勝つためのセオリーどおりに走れたということです。それしか方法がない中で、必要なことをすべて実行できました。哲太はタイヤの良いところも、苦しいところも理解し、コントロールしながら、リスクを取る場所を変えてくれました。そのすべてがうまくつながったレースでした。

そしてこのドラマは最終戦の鈴鹿へ

最終戦の鈴鹿については、かなり厳しいと考えています。西コースも再舗装され、これまでとは状況が変わっています。進むべき方向は見えていても、まだ必要なものを準備し切れていません。ぎりぎりまで全員で準備を続けますが、厳しいというのが現実です。何かひとつでも武器を用意できれば、それを使って戦うしかありません。雨でもドライでも厳しいので、状況を見ながら何を準備するかを考える必要があります。今の段階で勝ち負けを語れる状況ではなく、まずはトップ争いに加わることを目標に取り組みます。


鈴鹿は、世界的に見てもタイヤにとって非常に厳しいサーキットだと思います。あそこで耐えられるタイヤを作れれば、それは世界レベルのタイヤだということです。あれほど厳しいサーキットは、ほかにはなかなかありません。全日本の1戦ではありますが、鈴鹿には、それだけの難しさを踏まえて挑まなければならないと思っています。
そこは以前から感じていることですし、ダンロップも課題として捉えています。どこまで戦える準備をしていけるか。トップとの差を少しでも小さくして、上位でゴールしたいと思っています。ただ、最終戦には参戦する顔ぶれも増えますし、鈴鹿を得意とするライダーもいます。耐久レースなどでデータを蓄積してきたチームも多いので、競争は非常に厳しくなると思います。

このプロジェクトは、当初から3年間という予定で始まりました。ただ、3年で終わるかどうかということ以上に、ここまで持ってこられたことに大きな意味があると思っています。
プロジェクトを始めたとき、最後までチャンピオン争いに残れると考えていた人は、多くなかったと思います。その前に、これだけ勝ち負けを争えるようになること自体、みんながそこまで想像していたわけではありません。その中でここまで来られたのは、ダンロップのみんなが目標に対して真摯に取り組んでくれたおかげです。
その努力は無駄ではなく、可能性がある。それをダンロップのファンも、哲太も、チーム全員も感じられるところまで来られたことに、大きな価値があります。


ここでチャンピオンを獲得できれば、また違う段階を考えることになるでしょう。ただ、結果だけではなく、取り組んできた過程の中で、何がまだ足りないのかを確認できたことも大切です。チャンピオンという結果とは別に、もっと大きなものを得られたようにも感じています。
まだ開発を続けなければいけない。どんな状況でも勝てるタイヤには、まだなっていない。もっと進めなければいけない開発がある。そうしたことを、みんなが改めて考える機会になりました。それが今後どのような結果につながるかは別として、その認識を持てたかどうかは非常に大きいと思います。

もともとは、私が持ち込んだ企画です。でも、今後はダンロップ自身が『これは自分たちで続けていくべきだ』と思ってくれるのであれば、もっと大きな意味があります。そうなれば、この3年間の価値は非常に大きい。みんなを奮起させられたことは、私にとって大きな収穫です。
私は、その可能性を見せる側にいました。それを実際に見せ、感じてもらえたことが、この3年間で得られた一番大きなものだと思います。『できるんだよ。もっとやろうよ。まだ先は長いかもしれない、でも実現できる』と、全員が思えるようになったことです。


それまでは、自分たちが持っている実力と、取り組んできたことが、結果につながり切っていなかったのだと思います。例えるなら、どれだけ勉強しても東大に入れなかった人が、勉強の仕方を変えたことで入れるようになる、というようなことです。
みんなが努力してきたこと自体は、間違っていません。ただ、手法や考え方、やり方、アプローチを変えることで、自分たちが目標としてきたところにたどり着ける。それを会社としても、個人としても、開発や技術に携わる人たちも、結果が出たことで実感できたのだと思います。

以前は、取り組みが良かったのかどうかも、結果が悪ければ自信につながりませんでした。でも、結果が出たことで、『これをもっと進められる』『ここは違っていた』『もっとアプローチを変えられる』と考えられるようになり、自分たちがやってきたことにも自信を持てた。その意味で、やはり結果は大切でした。結果がついてきたから、みんなが変わったと思います。
この企画には、大きな意味があったと思っています。今後もダンロップの挑戦や進化に期待しています。」

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