DUNLOP Racing Team with YAHAGI インサイドストーリー2


プロフェッショナルなレーシングチームとして活動する7C。これまでは主に小排気量クラスを主戦場に全日本ロードレース選手権J-GP3クラスを選択し、その戦いの中で協力メーカーとともに新たな物の開発をしてきている。そうした開発契約の中の一つとして、ダンロップタイヤの全日本J-GP3タイヤ、さらには世界選手権Moto3用タイヤも含まれていた。

DUNLOP Racing Team with YAHAGI チーフエンジニア藤沢裕一

チーフエンジニアである藤沢 裕一さんは言う。

「昨年の全日本選手権で3年連続J-GP3クラスのタイトルを尾野弘樹とともに獲得しました。Moto3クラス用として開発したタイヤも、世界選手権の場でそれなりの評価を得ていた。でも全日本選手権J-GP3クラスのユーザー数を見て見ると、そこでチャンピオンを獲得したタイヤであるにもかかわらず、ユーザー数が増えないどころか、減少するような状況にある。結果がすべてであるはずであるレースフィールドにおいて、それが評価されないのは自分にとって、異常にさえ感じた。ではそれはどこに理由があるのかと、自分なりにリサーチし、さらにダンロップのエンジニアとミーティングを重ねたところ、全日本の最高峰カテゴリーであるJSB1000クラスでの結果がそのまま、すべてのレース用タイヤのパフォーマンスのイメージに繫がっており、それが大きな障害になっていることが分かった。それなら、ウチ(7C)でタイヤの開発をしながらJSB1000クラスへ参戦し、トップを獲ってやろうと動き出したのが、このプロジェクトのそもそものスタートとなりました」


長島哲太選手(左)と藤沢裕一さん(右)

レースを戦うには、『ヒト・カネ・モノ』が必要であるのは言うまでもない。それがさらに、頂点を目指そうとすれば、それに応じたレベルのものが必須だ。

「まず最初に考えたのは、ライダー。でもそれは最初から自分の頭の中に、一人のライダー、これがそもそも欠けたらこのプロジェクトは成立しないという人間がいました。それが長島哲太。哲の存在は絶対条件だったし、しかも彼をこのプロジェクトに巻き込むとしたら、今のこのタイミングしかないと思いました。彼はHRCの開発ライダーを務めていますし、このプロジェクトに加わってもらうためには、続けている仕事から離れてもらわなければいけない可能性もある。長期的なプロジェクトに関わり始めたら、それを中断させるのは至難の業。昨年の時点ではそういう状況ではなかったので、今、このタイミングしかないと考え、まず最初に哲には声をかけました」

長島選手のインタビューで「藤沢さんだから受けた」と言っているように、そこへの信頼、さらには、ダンロップタイヤの秘める可能性の高さを考え、参加することを決めたのだった。
さらに必要な『ヒト』は、いる。冒頭でも紹介したように、7Cとしてのレース活動はこれまでそのほとんどが、J-GP3クラスやMoto3クラスという小排気量クラスだ。新たに参入するJSB1000クラスで使用されるスーパースポーツ1000ccマシンの理解、そもそも、純粋なレーシングマシンでのレースを得意とする7Cにとって、市販車を改造して戦うJSB1000クラスというカテゴリーも、限られた時間の中で結果を出して行くには、ノウハウが少ない。藤沢さんの頭の中には、そこを埋めてくれるもう一つの『ヒト』の存在があった。

アクティブの技術顧問 光島 稔


光島 稔さん

それは、元TSRのチーフエンジニアとして世界選手権から全日本選手権、さらに鈴鹿8耐それぞれで、勝利した経験を持つ光島 稔さんだった。現在は、7Cのスポンサーでもあるアクティブの技術顧問として活動している光島さんをこのプロジェクトに巻き込むことも、車両面に関して短時間で仕上げ、タイヤ開発に時間を割くためにも欠かせない人物だった。
そこで藤沢さんは早い段階でアクティブへ直接出向き、会社としてこのプロジェクトへの参画を依頼。併せて光島さんの力も必要と、本人に直談判した。

「責任の大きさ、意義から、中途半端な関わり方は出来ないと感じたので、決断するまで少し考えさせてもらいました」と振り返る光島さんだが、そこに秘める可能性の大きさと面白さ、さらに光島さんの個人的理由から、参画にOKしたと言う。
「少し前に大病し、レースの現場でモノ造りをしながら戦うことから退きました。自分の持っているノウハウはTSRに残してきましたが、エンジニアとしてやってきたアイデア、モノ造りの技術をだれかに継承してもらいたいという想いは、自分の中で強くありました。全日本全体を見回してみて、同じ感覚でマシンを造り、セットアップできる人間は藤沢くらいしかいないのではないかと思います。その藤沢から『一緒にやってほしい』と頼まれたので、最終的には引き受けることにしました」
目立たないが、既に車体の各部には光島さんの設計による機能部品が多数組み込まれており、その部品を造るための治具の図面も、光島さんは藤沢さんに渡したと言う。
「どう使うか、生かすも殺すも藤沢次第。まぁ彼なら、それを使いこなしてくれるでしょう」と光島さん。
そうして藤沢さんは、頂点を獲るために必要な『ヒト』を揃え、さらに『モノ』の一部も手に入れた

矢作産業株式会社


矢作産業株式会社ホームページより

そうして地固めをしながらも、藤沢さんはプラスアルファの要素を作るため、スポンサー獲得の動きもしていた。何社かの候補があがる中、足を運んで藤沢さんが実際に自分の目で見てみたいと思える企業が、その中の一社にあった。それが、矢作産業株式会社(以下YAHAGIに略)だ。
「愛知県豊田市にあるYAHAGIは、四輪車のボディ部品や精密機械加工部品の試作を得意とする会社、とのことでした。我々がマシンを作っていく過程において、精密部品を仕上げるためには外部の協力工場が必要になります。それも、レースは限られた時間の中でと言う制限が常に付いて回るため、短期間で我々の望む精度の部品をとなると、それなりのレベルの設備と技術者が必要になります。それが、YAHAGIには揃っていました。そうしたもの造りの協力と、さらに金銭的な支援もいただけるとのことで、さらに強力な一歩をそこで踏み出すことができました」
短期間で事前テストに向けてマシンを造らなければいけない状況下、YAHAGIの技術支援は大きな力になったと藤沢さん。
「フレーム加工や車体周りの細かい部品をお願いしましたが、とても精度の高い仕上がりで助かりました」(藤沢さん)

さらなる必須要素である『カネ』と『モノ』。そこはダンロップとの度重なるミーティングで埋めていった。
「企業として全面的に最前線へ出ていくことは、リスクも伴います。でも自分としては長年、一緒に開発をしてきているから、その可能性の高さは十二分に感じているし、初めて参戦するJSB1000クラスとは言え、短時間で結果は残せると確信していた。だから、どうせ参戦するならダンロップのフルカラーでぜひやりたいとお願いし、それを実現するための方法も説明した」
やっと2023年末までにGOとなり、すべてが本格的に動き出した。でも、開幕戦までには3ヶ月もない
そこからチームの文字どおり、不眠不休の作業が開幕前テストに向けて始まった。

▼関連記事は下の画像リンクをクリック


インサイドストーリー連載記事まとめ

全日本ロードレース【レースレポート】