DUNLOP Racing Team with YAHAGI インサイドストーリー5
芝本昇平(住友ゴム工業株式会社 タイヤ事業本部 技術本部 第二技術部 課長)
JSB1000クラスでチャンピオン獲得が果たせるタイヤ開発ということで、このプロジェクトはスタートしている。開発プロジェクトを担当するのは、住友ゴム工業タイヤ事業部技術本部第二技術部。オンロードレース用タイヤを開発する部署で、芝本昇平は実際の開発を取りまとめる。
JSB1000でチャンピオン獲得を目指すとなると、幅広いユーザーへの対応が求められるアジア選手権や全日本ST1000クラスに向けたタイヤとはまた異なるコンセプトが必要となるのではないだろうか。
「要求項目自体は一緒だと思います。ワンメイクレース用タイヤもJSB1000クラスでチャンピオン獲得を目指すタイヤも、『安定して速く走る』ことが求められるわけですから、タイヤに対する要求項目自体が大きく異なることはないと考えています」
ダンロップとして、JSB1000クラスでのタイトル獲得の先には、そのタイヤを一般ユーザーに提供したいというねらいがあると言う。
「今のレース状況の中でスペシャルタイヤを作り、それを使ってJSB1000クラスチャンピオン獲得を獲りました、というそのことだけに大きな意味があるとは考えていないのです。チャンピオンが獲れるタイヤをいろんな人が普通に買えて、そこで初めて価値が出てくるものだと認識しているので、もちろん現状で長島選手が速く安定して走れるタイヤを作ることが第一義ではあり、そのためにある程度尖ったタイヤを開発のプロセスの中で作っていくことはあるでしょうが、それに終始する、ということは考えていません」
JSB1000クラスのチャンピオンを獲れるタイヤ開発ということ自体、非常にハードルが高いものだが、それに対してさらに『市販』を意識し、幅広いユーザーが使える懐の深いタイヤを開発目標の中には置く、ということだろうか。
「ST1000クラス用タイヤはワンメイクレース用として、幅広いユーザーに使ってもらうことになるので汎用性のあるタイヤにしなければなりません。JSB1000ではチャンピオン獲得を目指すわけですから、ある程度尖らせる必要も出てくるでしょう。このプロジェクトはご存じのように3年計画ということでスタートしていますので、まず最初の2年では結果を出すためにスペシャル対応を含めてやろうと思っていて、それで結果を出しに行ってその先に市販化ですね。そういうアプローチで、今回のプロジェクトを進める予定でいます」
JSB1000クラスで勝利し、さらにタイトル獲得を果たそうとすると、タイヤに求められる性能は相当高いものであることは想像に難くない。とはいえ、これまでのST1000クラスのポールポジションタイムをJSB1000クラスへ当てはめると、サーキットによっては6番手、7番手あたりに相当することもある。マシンの性能差を考えると、ST1000用タイヤの性能が、大きくJSB1000上位陣が使用するものと離れているとは言いがたい現実もある。
「第2戦JSB1000クラスの第1レースは15周で行われ、翌日のST1000クラスも同じ周回数でしたのでそこに当てはめると11位。昨年の予選タイムでも、サーキットによってはJSB1000クラスの6番手、7番手あたりに相当するタイムが出ています。車両の性能差を考えると、ST1000のワンメイク用タイヤも、それなりに戦える性能は既に持っていると言えると思います。だから今回のプロジェクトのスタートも、まずはアジア選手権とST1000用として開発してきているタイヤをベースとして開幕戦に持ち込みました。結果的に、ポールポジションを獲得したときに履いていたタイヤは、アジア選手権用として開発しているものでした。そうして開幕戦を終え、課題としてコーナー進入時のところが出たので、その対策を前後タイヤともに行い、第2戦に持ち込みました。リザルト的には第1戦を上回ることはできなかったのですが、開発作業としては持ち込んだタイヤの性能評価において良い部分があったので、非常に収穫のあるレースとなりました」
相当数の開発タイヤを第2戦に投入したようだが、木曜日1本目の走行ではコンディションとのマッチングに問題があり、長島選手は転倒を喫してしまった。
「開幕戦の鈴鹿はずっと寒いコンディションという予想だったので、それに対応できるようなタイヤを持ち込みましたが、第2戦もてぎは日曜日に向けて温度が上がっていくという予報だったので、鈴鹿で使ったタイヤをベースに、ハード側のタイヤを用意しようと準備していました。それで、木曜日の1本目の走行からハード寄りのタイヤを評価してもらおうとしたら、気温条件があわず転倒してしまった、という流れです。このプロジェクトの開発は、数人の技術者に担当してもらっています。彼らが今、シミュレーションを重ねながら設計しているのですが、そこでの先読みが、第2戦に持ち込んだタイヤが成果を上げた大きな要因となっていると思います。新しい仕様のタイヤを作ろうとすると、それ用の金型を作らなければいけないのですが、それを作るには数ヶ月単位の時間がかかるのです。だから開発は常に先読みをして、そのための準備を進めておく必要があります。そこで活躍するのが、コンピュータによるシミュレーションなのです。以前にもJSBクラス用のタイヤ開発をしたときがありましたが(2012年~2019年)。そのときも私は担当していたのですが、そのころに比べて、コンピュータを駆使してのシミュレーションが飛躍的に進化しているので、かなり精度としては高い開発ができていますし、先読みをして準備を進めておくことで、全体の作業が前に進むようになります。シミュレーションによる解析が進み、核心を突いたデータの分析ができるようになったわけです」
このプロジェクトは3年計画とされている。3年後のチャンピオン獲得にたどり着くために、今季はどれくらいの結果をねらっているのだろうか。
「今季、第7戦の岡山国際サーキットでのレースで、表彰台に上れたら上出来だと思います。当然そのためにはかなり前進していかなければなりません。まだ今シーズンは2戦が終わったところで、こちら側の準備としても十分にできていたと言えるような状況ではありませんでしたが、自分たちの実力もある程度JSB1000クラスの中で把握できましたし、前半戦最後となる次のSUGOでは、もっといいレースができると思ってます。理由としては、もてぎまでには準備できてなかったいろいろなものが持ち込めるようになります。材料的にもここまでは市販前提のものを使ってきましたが、次はそれとは違ったものを投入予定です」