DUNLOP Racing Team with YAHAGI インサイドストーリー7
事前テストを踏まえ、レースに向けてリアは2種類、フロントは今までのベースがあるので固定。事前テストでの車体設定の見直しをチーム側として行い、レースウィークにマシンを持ち込みました。ただ、事前テストで転倒してしまったことで、状況としては積極的に前に進める作業ということがしにくいというのが現実なので、タイヤの評価を出せるところに照準を置き、初日の金曜日は走り込みました。
予選の最後でQタイヤを入れてコースへ出したところ、アタック2周目でブレーキのトラブルが発生してしまい、そこで転倒してしまいました。
使っている部品の構造上の問題と、転倒したSPインコーナーで、今のタイヤを使いこなすには結構リアブレーキをハードに使用しなければならず、普通のリアブレーキより負担が大きかったことにより、トラブルが出てしまいました。通常では壊れるようなところではないのですが、それはチームとして注意しなければいけないところです。幸いにもライダーの怪我もひどい状態ではなかったので、とにかく午後のレース1に向けてマシン修復を行いました。
レース1は事前テストで主に使ったタイヤを入れて臨んだのですが、レース後半、厳しい展開となりました。でもそうした中でも完走し、タイヤの情報を持って帰ってきてくれたので、それは貴重なデータとなりました。
事前テストで主に走らせたタイヤに関してはデータが取れたので、もう一種類のタイヤをレース2では使うことにしました。決勝朝のウォームアップ走行は気温的に少し低くてコンディション的には厳しい状況ではありましたが、午後のレース2では2本目のタイヤを使うことは決めていたので、あえて履かせて走りました。
チームとしては、前日のレース1の振り返りをライダーと行い、レース後半が苦しかったのでそこでタイヤに合わせる車体のセットにしたのと、タイヤが持っていない性能を車体側でカバーするようなセッティングにしました。それでウォームアップ走行を行い、さらにレース2を走りました。
レース2を走り切ったところでの長島の評価としては、ここまで作ってきたタイヤの中でいちばん手応えを感じたと思います。レースではまだまだライバルに対して苦しい状況ではありますが、今後開発を進めていく上でのベース、卵のようなものが今回のレースウィークで産まれたことはたしか。レース2では途中でハイサイドを起こしかけて腰を痛め、現状のパッケージングでレーシングスピードで走ろうとするとかなり身体を動かして乗る必要があるため、それ以降の走りがかなり苦しくなってしまいました。そこに関して長島は「もっと上の順位で走れたのに申し訳ない」と言っていましたが、長島じゃないとできないライディングができない状況になっても、1分27秒後半から28秒前半、終盤になって28秒台後半というペースで走れたということなので、そこはある意味、特別な走りをしなくても出るという確認もできたので、長島個人としては悔しいだろうけど、データ取りという開発作業面から見たら、良い検証ができたと思います。
レース後にチームサイドとして、長島にはライダーの立場からダンロップへ最優先すべき項目についてリクエストしてもらい、我々ハード面を担当する立場からも、欲しい部分を伝えました。
ここまで3戦レースを戦いながらタイヤ開発を行ってきていますが、全員が認識しているのはイチから物作りをしている、ということ。だから、現実としてはライバルとの差が明確にあります。CBR1000RR-Rというマシンを使っており、そのパフォーマンスをJSB1000というカテゴリーで許される範囲内で、精一杯の性能を出して走らせたいけど、現実としてはハード面がそれを支えきれない部分があるので、そこをチーム側が救うようなセットをしています。そこを3戦こなすことで、ダンロップのエンジニアも状況を理解してくれて、お互いの信頼関係、コンビネーションが取れてきていると感じています。
このプロジェクトはタイヤの開発を3年計画で行い、3シーズン後にはタイトルを獲りに行こう、というものです。限られた時間の中でライバルを凌駕するタイヤを開発し、結果を出さなければならない。でも3年って、時間があるようで実は短いですよね。何しろ全日本は年間8戦、今年で言えばJSB1000は全部で11レースしかありません。同じレース数で来年、再来年も行われるとすると、全部で33レース。再来年にはタイトルを獲りに行くとなると、ライバルを超えるパフォーマンスを保つタイヤを、今年と来年の合計22レースの中で作っていく必要があるわけです。
当然、ダンロップのエンジニアも新しいタイヤをどんどん造り、長島に乗ってもらいたいと思いますが、例えば今回のSUGOで言えば、本人はJ-GP3時代に走ってから、もう10年ちょっとSUGOを走っていない。そんな状態でいきなり新しいタイヤを履いてテストというのは、本人にとっても厳しいですよね。だから、ダンロップのエンジニアが自分たちがテストしたいことも我慢して、「最初の1本は身体慣らしに使ってください」と言ってもらえるようになった。それは大きいと感じています。本当に時間は限られているから、申し訳ないけどちょっと開発のラインから外れていそうな新しいスペックのタイヤは、自分がダンロップのエンジニアに説明して、別のタイヤを履いてテストすることをお願いすることもあります。でもそれも受け入れてもらえているので、そこは我々の仕事に対して理解してくれていると感謝ですね。そこが、さっき言った『お互いの信頼関係』を感じる部分です。
だから、開発環境に関してもやっと、ベースとなる基盤ができたと感じます。まだまだ超えなければいけない山ははるか上にありますが、一歩一歩着実に上がっていきます。すぐに鈴鹿でタイヤテストがあり、そこで前半3レースの中で開発してきたタイヤの性能評価をするので、そこへ向けてさらに準備を進めます。