DUNLOP Racing Team with YAHAGI インサイドストーリー8

【タイヤ開発のための車体変更】

改造範囲が限られている全日本ロードレース選手権JSB1000クラス。車体周りでもっとも大きな改造ができるのが、スイングアームだ。メインフレームは補強が許されているものの、追加工は出来ない。フロントフォークやステム周りの変更は可能なので、そのあたりで剛性バランスを取ることは可能だが、それでもメインフレーム部自体は変えられないので、車体剛性バランスを取ろうとすると、スイングアーム変更という方法を採ることになる。
DUNLOP Racing Team with YAHAGIが今シーズン、JSB1000クラスに参戦する中でダンロップタイヤの開発を進めていくと決まった時点で、スイングアームの変更は車体のパフォーマンスアップのためには必須と考えていたという。その大きな理由の一つが、タイヤ開発を行う車両がCBR1000RR-Rであるが、ダンロップとしては近い将来、開発したタイヤを多くのユーザーに使ってもらいたいという考えがあるからだ。つまり、目の前の勝利はもちろん求めるが、そこでCBR1000RR-Rに特化したタイヤを造るのではなく、幅広いユーザー、車両に対応できる懐の深さを持つタイヤにしなければいけないのだ。
当然その中には、ワールドスーパーバイクや各国で行われるナショナル選手権でのプロダクション1000ccレースも視野の中に入ってくる。最新のプロダクションマシンの主流となっているライディング、車体バランスに、開発車両をする必要があるのだ。


そのためにチームは今季の早い段階から、独自のスイングアーム開発に着手し、準備を進めてきた。
とは言え、ワークスチームがマシンを造り上げるのとは異なり、限られた時間の中でマシンを仕上げた上でタイヤ開発を行い、レースでの結果も出していかなければならず、トライ&エラーでスイングアームを造り上げていくような手法は採れない。そこで、チームのエンジニアである藤沢裕一さんは自チームのスポンサーであるパーツメーカー”アクティブ”の井上専務にいちばんに相談をし、同社のテクニカルアドバイザーである光島 稔さんにベース設計協力を依頼。さらに同社の技術的サポートとトップ.アンダーブラケット、ステップ、ホイールなど車体関係のパーツ作成もしてもらえることになった。オリジナルパーツを設計作成しているアクティブと、前モデルCBR1000RRで鈴鹿8耐を制覇し、CBR1000RR-Rでのノウハウも豊富に持つ光島さんの手を借りれば、最短距離でマシンを完成させられると考えたからだ。
スイングアーム関連の製作に関しては、チーム名にも入るスポンサーである矢作産業がすべてのパーツを削り出し、造り出すこととなった。
オリジナルのスイングアームは、4枚の板材を二枚ずつ溶接して左右のアームを構成。ピボット部の手前で連結し、この部分を箱状に構成し、そこにリアサスペンションを通すホールも造る。
スイングアームのアーム部分を構成する左右のパネルは、アルミの削り出しとされた。これはスイングアーム作成案のいちばん最初に藤沢さんがこだわった部分で、設計変更に対し自由度を持てることと、削りならではの精度管理に特化させることにより、試作1本目から2本目への設計変更に対してコストや作成時間に大きなメリットを持つと考えたからだった。
その加工には、矢作産業が所有する大型の5軸マシニングセンターが活躍した。四輪車の試作を得意とする矢作産業の持つ加工機械は、当然のことながらすべてが四輪車製造のもので、二輪車の加工はサイズ的に楽。しかも四輪メーカーの試作品に求められる精度は、量産品を遙かに超えるものであることから、十分に対応できる加工能力を持っている。しかも矢作産業はより高い精度を求め、大型のアルミ材を削るとどうしても生じる残留応力の問題に対しても荒加工から仕上げ加工の間に数回の応力を抜く時間を作り、仕上がり単品での寸法精度にこだわり、初めてのスイングアーム作成という多くの難題に対しても今まで培った試作加工でのノウハウをフルに発揮。矢作産業の実力を再確認できる内容となった。さらに高い溶接技術を持つ藤沢さんの手による組み立て作業により、ファクトリーレベルでも数ミリとされる公差をほぼ0mmで完成させたという。

【メインフレーム部におけるモディファイ】


これも外観からは分かりにくいが、矢作産業による車体加工作業は、開幕戦から使用しているメインフレーム部にも行われている。幅広いセッティングを可能とするため、ステアリングヘッドとピボット部が加工されているのだ。カラーの変更によって短時間でキャスター変更ができるよう、ステアリングステム部が加工され、さらにピボット位置を変えられる加工もされているのだ。開幕戦では時間の都合でヘッドパイプ部の加工のみだったが、第2戦もてぎ前にはピボット部の加工も済んでいた。
言うまでもないことだがこの二つの部分は大きな荷重がかかるため、精度の低い加工だと安定したセットアップはできなくなってしまう。そのあたりにも、高い精度での加工を得意とする矢作産業の技術がフルに発揮されているわけだ。
また細かい部分ではあるが、ブレーキング時のダイレクトなフィーリングを得るため、前後のブレーキディスクも独自に設計し、パーツメーカー“アドバンテージ”でワンオフで製作し、 それに合わせ込めるようホイールの設計もしてある

【限られた時間の中でのセットアップ】


6月末からスイングアームの各パーツ加工が矢作産業でスタートし、すべての部品がチームの工場で揃ったのは全日本第5戦もてぎ2&4直前となったこともあり、レースウイークがいきなりシェイクダウンとなったため、トライ&エラーする余裕はない。藤沢さんがこれまでのレースの中で得た知識と開発しているタイヤの傾向から車体を設定。金曜日1本目のフリー走行に臨むこととなった。
第5戦もてぎ2&4でのレースウイークはそこからレースに向けてタイヤの選択と車体のセットアップを進めることとなった。
結局、この第5戦もてぎのレースウイークでの走行時間は、金曜日が40分を2本、土曜日は40分間の計時予選、日曜日が20分間のフリー走行、そうして20周の決勝で、スイングアームに関するセットアップを十分に行うことはできなかった
できることならば、8月最終週に予定されていた全日本第6戦へ向けた二日間の事前テストでそのあたりのセットアップを進めたいところだったが、台風の接近によってテストはすべてキャンセル。またしても、レースウイーク中の走行時間を使って、スイングアーム周りのテストも行わなければならなかった。それでも第5戦もてぎのレースをこなしていたことから、そこで得られたデータを基に、オートポリスでスイングアームのセットアップを進め、リンクレシオと荷重案別を変更するために作成した20種類のリンク設定の中から、現状のダンロップタイヤのグリップに適したリンクチョイスと車体ディメンションデータも得られたという。
次戦岡山大会は事前テストがあるため、多くの開発タイヤを持ち込むと意気込むダンロップエンジニア陣の新作タイヤのテストも進め、ラスト2戦での今季の仕上げを行うこととなる。

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