DUNLOP Racing Team with YAHAGI インサイドストーリー9
DUNLOP Racing Team with YAHAGI チーフエンジニア藤沢さんコメント
【最終戦の振り返り】
最終戦MFJ-GPは、事前に行った岡山テストで最終戦用に準備したタイヤが使えませんでした。岡山国際サーキットと鈴鹿サーキットでは、タイヤに掛かる荷重が異なり、その部分で期待していた性能が得られないことが木、金曜日の走行で分かったからです。そのために、岡山テストで最終戦用に持ち込んだ新型タイヤとは異なる別の開発タイヤを予選、レース1で使うことになりました。そのために予選も異なるタイヤに対してセットアップをしながらタイムを出していかなければならず、状況的には厳しかったですね。最後に予選用タイヤを入れましたが、セットアップの時間が限られていましたから、持っているパフォーマンスをすべて発揮できるような形には持っていけませんでした。そのような中での予選となったので、想定よりも少しピットインが早くなり、最後の周回数が1周半ほど多めになりました。結果的にガス欠になってしまったのも誤算でした。
そもそも今回のレースの前に、ライダーの長島はHRCのテストライダーとしてワールドスーパーバイク最終戦に参加。当初は予定していなかったレース後の居残りテストにも参加することになったため、帰国が全日本最終戦搬入日の水曜夜。ほとんど寝ない状況で木曜の特別スポーツ走行に参加するというスケジュールでした。時差ボケもある中で、さらにはワールドスーパーバイクでDUNLOPとは特性の異なるタイヤでレースをしてきたので、その感触も本人の中には残っていたことから、感覚を戻すのにも時間が必要でした。だから初日の長島のコメントとして「ライディングのこの部分はピレリの感覚が残っているので、それは自分で修正する。ただ、現状のマシンのこの部分はどうなのか?」と言っていて、的確なコメントを初日から述べていました。チーム側としては長島のライダーとしての感覚に不安は全然ないし、HRCテストライダーとしての側面もお互いに仕事だから不満もなかったですね。そういうことができないとテストライダーは務まらないし、チーム側としても長島という開発ライダーを使って『タイヤ開発』という仕事はできないですからね。
そのような様々な条件があり、レースに向けてのセットアップ時間は限られましたし、レース2では追突されるというアクシデントも起きてしまいました。それでも今後のデータ取りのために決勝の周回数を稼げるようトライしましたが、走り続けるのは危険と判断してレースは終了となってしまいました。
【タイヤ開発初年度を終えての総括】
今年、量産されているアジア選手権用のタイヤから開幕戦をスタートし、基礎開発と先行開発を主軸に、それぞれのレースに向けて開発作業を進めてきました。テストしたい項目、目指すべき方向性を探るために様々なトライをしなければならず、かなりの本数のテストを、レースウイーク、さらにプライベートテストの中で行いました。すると、それぞれのタイヤに合わせて乗り方も変えなければいけないし、セットアップも変えていかなければなりません。毎戦、コースやコンディションも変わる中、成績とタイムを一つの指標として見ながら作業してきました。ただ、レースウイークでも基礎研究に費やさなければならず、なかなかレースに向けてのセットアップ、ライダーの走り込みという部分はできなかったので、成績、タイムという点に関しては、厳しかったというのが現実ですね。
でも、とにかく今年は我慢をしながら仕事をこなしていたので、データの蓄積という点において結果は残せたと思います。基礎開発という部分に関してはある程度できたので、再来年のチャンピオン獲得というこのプロジェクトの大きな目標を実現するために、来年はもっと実践的な『レースに勝つ』ための準備をしていく段階だと考えています。ライダーが走り込む時間もそうだし、新しく開発されたタイヤを使ってタイムを出す準備をする時間もそうです。もっとレースの中で純粋にタイムを出すためのタイヤ開発、レースの中でライバルとの駆け引きが可能なタイヤ開発、このようなところへアプローチしていければと考えています。そういう話し合いをダンロップのエンジニアとしていて、来年はもっとレースの成績に特化させ、タイヤ開発をしながらも、より高いレベルでレースをしていく段階になったと感じています。そのためには、レースに向けて早めにセットアップを仕上げ、ロングランもしていかなければいけない。今年はとにかくテストするタイヤの本数も多く、時間的余裕もなかったため、セットアップやロングランができませんでした。
【来年に向けて】
来年はレースに必要な準備、段取りをきちんと見据え、レースでの成績を上げるための開発や準備をして、純粋にレースを戦うという段取りをしていきたいし、そうしていかなければ再来年のレースは見えてこないと感じています。今年の戦いで、全日本が開催されるサーキットそれぞれに対して求められるタイヤが見えたし、それは長島自身もそうだと思います。長島が全日本からヨーロッパへ出て行ったと言っても、それはもう10年以上前の話で、全日本に戻った今年は初のJSB1000クラス参戦。JSB1000クラスならではの戦い方というのは当然存在するわけで、いくらMoto2クラスを戦ってきた長島といえど、ライバルに対してJSB1000マシンでの戦い方のノウハウは少ないわけです。それを本人が経験するということも、2024シーズンの一つの大きなテーマでした。
現在の全日本JSB1000クラスはヤマハファクトリーの中須賀克行選手が2018年、2019年。2020年は当時ヤマハファクトリーに所属していた野佐根航汰選手。さらに中須賀選手が2021年から3年連続チャンピオンを獲得し、今年は同じくヤマハファクトリーの岡本裕生選手がチャンピオンとなった。言ってみれば、ヤマハ中心にレースが進んでいる。チャンピオンチームを中心に、タイヤ開発だって進んでいく。言ってみれば、長くチャンピオンに輝き続けている中須賀フォーマットでJSB1000クラスの環境は構築されているわけです。だから、同じブリヂストンタイヤを履いた環境であれば、そこを超える相当ハイレベルなハードとライダーを揃える必要があります。その一つが、今年のTeam加賀山のファクトリードゥカティと、勢いのある水野涼というコンビネーションだったと思います。ダンロップとCBR1000RR-Rを駆る長島哲太のコンビがその牙城を崩すためには、やはりまったく異なるアプローチが必要となる。その一つが、今年の一つのアプローチとしてトライしてきた『曲がるタイヤ』だったりするわけです。そうした戦う武器のベースを今シーズンの開発作業の中で作ってきたので、来季はそれを結果に結び付けられるトライをしていかなければいけません。ダンロップからの提案で、このシーズンオフには海外テストにも行く予定なので、たくさんテストを行い、2026年のタイトル獲得に向けたトライをしていきます。