DUNLOP Racing Team with YAHAGI インサイドストーリー12
チーム監督が振り返る、プロジェクト2年目の第6戦岡山大会までの戦い

2025開幕戦のもてぎ

開幕戦となったもてぎのレースウィークでは、手応えのあるタイヤがひとつ仕上がってきた。プロジェクト2年目のスタート時点としては、ダンロップの技術陣がかなり頑張ってくれたと思う。ただ、レースのほうはトラブルに見舞われ、リタイアとなってしまった。


持ち込んだタイヤの手応えは、これまでの戦いの中でも群を抜いていたのは間違いない。このタイヤをうまく使えれば、確実に前進できるという確信が持てるほどの仕上がりだった。しかし結果的には、タイヤの大きな変化に対して、周囲の要素が追いつかず、それがリタイアにつながったというのが現実だった。
「どんなレースを見せるか?」という戦いの中で、実際にトップを走る場面もあったが、トラブルによりピットインし、リタイア。これが開幕戦の結末だった。

第2戦SUGO

続く第2戦はSUGO。スポーツランドSUGOでのレースでは、トラブルのない展開を望んでいたが、時間的な制約もあり、十分な準備ができなかった。限られた時間の中で開発を進めたタイヤで臨んだ結果、消化試合的な雰囲気にはなったものの、収穫もあった。

特にレース2では、コンディションが悪化したことで(ウェットパッチが残る中でのドライレース)、我々の武器であるドライブ性能、前に進む力、そしてライダーのスキルをある程度活かすことができた。もちろん、コンディションの悪化は我々にとっても厳しいものだったが、ライバルとの性能差が縮まったことで、10周目までトップを走る展開を見せることができた。
最終的な順位はレース1と同じく7位だったが、少しは見せ場のあるレースができたのではないかと思う。


8月第4戦もてぎ

次は第4戦・もてぎ。8月のもてぎでは、開幕戦で使用したタイヤをベースにした仕上がりのタイヤが再投入された。トラブルへの耐性は開幕時よりも向上しており、状態は良好だった。感触も良かったが、課題を完全に解消するには至らなかった。


特に真夏のもてぎは、ライバル勢にとっても厳しいコンディションだった。そのため、レース全体のパフォーマンスで見れば、ライダーの体力、技術力、そしてチームのセットアップを含めて、我々が努力してきた分の成果を得られる展開だった。加えて、チーム事情として「これ以上ポイントを落としたくない」という思いがレース1にはあった。リタイアは極力避けたいという方針のもと、レース1ではトラブルが起きないことを前提にセットアップを行い、レース2も完走を目指す方向で準備を進めていた。

しかし、タイヤが進化した分、レース1で少し前のレベルのタイヤに戻した際のギャップが大きく、ライダーもマシンも大幅なセットアップ変更を求められ、戦える状態には持ち込めなかったという現実があった。

そこで、レース1終了時点で進化版のタイヤを選択することに決め、日曜朝のウォームアップで確認を含めて、レース2ではトラブルが起きる可能性も覚悟しながら、ギリギリまで性能を引き出すセットアップを施した。さらに、万が一トラブルが発生した場合には、ピットインしてでも完走させる方針を並行して準備した。
このタイヤで実戦を戦うと決めたレース2では、水野涼選手と3位表彰台をかけた戦いを終盤まで展開することができた。これまでであれば、序盤の展開から後半にかけてペースが落ち、追い下げの展開になることが多かったが、今回は路面温度の高さなど、周囲の環境要因も重なり、ライバル勢が後半にペースを上げづらい状況となったことで、終盤までしっかりと戦うことができた。


第5戦オートポリス

第5戦オートポリスは、中高速域で左右に旋回するセクションがタイムに大きく影響するコースだ。他メーカーの車両と比較すると、ホンダにはやや不利な部分があり、ライバルタイヤを装着したとしても苦戦を強いられるような特性を持っている。我々にとっても、得意とする要素が少なく、車体のアジャスト面でも相性が悪く、苦戦することは最初から予想されていた。そのため、課題を完全にカバーするというよりは、ギリギリの戦いができればという思いで臨んだ。幸いトラブルの心配は少なかったので、自分たちの持てる力を100%発揮することに集中した。


その結果、レース2では中盤まで3位を単独走行する展開となったが、終盤にかけて集団に呑まれ、最終的には6位でフィニッシュした。第4戦もてぎまでは、状況がうまく噛み合えば序盤にトップに立ち、レースをリードする展開が見られた。しかし最近では流れが少し変わり、コンスタントにペースを刻みながら、終盤まである程度のポジションを維持する形に持ち込めるようになってきた。これはひとえに、タイヤの進化によるところが大きい。特に開幕戦に投入したタイヤの進化は顕著で、課題は当然残っていたものの、それに対する対応も着実に進み、終盤まで戦えるレベルにまで到達してきた。

岡山事前テスト

そうした感触もあったので、それをベースにもう一回ここで、というのが今回の岡山の事前テストだった。テスト二日目までの流れでは、もう1ランクレベルが上がっている感じなので、今年ここまでやってきたことが形になりつつあるし、それが結果に結び付きそうな方向性になってきている。いろんなもののアジャストも含めてやってきたことが、タイムやリザルトにわかりやすい形で見えるようになってきたし、ライダーや我々チーム側も手応えを確実に感じられるようになった


改良版スイングアーム

それと、岡山の事前テストから新しいスペックのスイングアームを投入した。これは今まで1年間、今となっては旧型となったオリジナルのスイングアームを使ってきて、そのスイングアームを使いこなし、その特性を理解できたので、さらに先に進むためのものとして投入した。


旧型のスイングアームは、ある程度こうなるだろうという仮定のもとで造ったもの。それをベースに、足りないところを増やしたり、余分なところを削ったりして、現状にフィットできるもの、プラス先に進める要素も加えて新作した。その新型スイングアームにより、セットアップの選択肢が増えたし、今後進んでいく方向性の中でその新型スイングアームが機能しているというのは確か。今は、哲太がバイクの上で操作する、操作したいということに対して良くなってきているのは間違いない。ダンロップのエンジニアが頑張ってくれていることが、やっと手応えを感じつつ、タイムやリザルトといった明確なものにつながっている。やっと少しずつだけど機能し始めたんじゃないかな。今までやってきたことの苦労と、この先またさらに大きい壁があるだろうから、1個目の壁を越えて、今もうぶつかりつつある2個目の壁のところまでは来ていると思う。

第6戦岡山

そうして第6戦岡山のレースを戦ったわけだけど、雨上がりの路面となり、路面状況の確認が取れないままレースに出ることになった。でも、テストから準備してきたことは最低限すべて出すことができ、その結果通り、表彰台に登ることができた。

事前テストでロングランをやり、そのときとまったく同じタイヤで決勝を走ったわけだけど、レース時の路面温度の確認はできないまま走った。しかしライバル勢はほとんどロングランができていなかったみたいだし、その部分での差がうまく出せたかな。あとは、レースになると相手がいるからね。テストの時のアベレージの取り方とはどうしても変わってくる。走行ラインも、コーナリングスピードも稼がなきゃいけないところを、相手がいると自分の思うように取れない部分が出てくる。その分の誤差はあるけど、でも全体的にそういう意味も含めて、今のタイヤの使い方を哲太が理解して、なおかつそれが車体セットに反映できていて、なんとかあの周回数を我慢できたっていうところが、今回のレースだったかな。


今までやってきたすべてのことに対し、タイヤの開発がやっと少し手応えあるところに進んだことは確かだと思う。

そして最終戦鈴鹿へ


鈴鹿サーキットは他のコースと比べてちょっと別物。本当にタイヤの進化が問われる。路面温度がどこまで下がるかという要素もあるけど、鈴鹿8耐でのライバル勢の速さを見る限り、そう簡単ではない。でもひとつひとつ前に進んでいるから、今年の鈴鹿でダンロップとしての今年の集大成を確認できて、足りないところをもう一度再確認できれば、それがまた次の進化への糧になるから、引き続き全力で戦うしかないね。

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